津村巧の未発表小説群

(携帯版)

 

餅つき

*食前でも食後でも一応読めます*

 

(ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン……)

 

 俺は餅をついていた。

 

(ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン……)

 

 餅つきは大変だ。単に腕力があればいいという訳ではない。身体の柔軟性も必要だ。

 

(ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン……)

 

「これくらいでいいんじゃないですか?」

 と、助手が言う。

 最近の若い奴は駄目だ。直ぐ妥協したがる。この程度でいいだろう、と。根性が足りない。

 俺は手を止め、助手の顔面を蹴り上げた。

 

(ドスッ)

 

「ウガッ」

 と、助手が呻く。

「馬鹿! 『これくらい』で満足するなら最初からやるな!」

「で、でも、もう二時間も……」

「二時間だろうが、二〇時間だろうが、二〇〇時間だろうが、ちゃんとできるまでやるんだ、タコ!」

 と、俺は叫ぶと、助手の顔を再度蹴り上げた。

 

(ドスッ、ドスッ、ドスッ)

 

 助手は、血塗れになりながら、

「は、はい……」

「よし、再開だ!」

 

(ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン……)

 

 できあがったか? いや、もう少し。

 どうせ出すなら、きちんとしたものを出したい。水準以下のものを出すのは、プライドが許さない。

 

(ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン……)

 

「あの、もういいと思います」

 と、助手が言う。

 最近の若い奴は駄目だ。この程度で弱音を吐く。根性が足りない。

 俺は手を止め、助手の顔面を数十回にわたって蹴り上げた。

 

(ドスッ、ドスッ、ドスッ)

 

「ウガッ、ウガッ、ウガッ」

 と、助手が呻く。

「馬鹿! お前が勝手に決めるんじゃない。俺が決めるんだ! 俺がいいと言うまでやるんだ。分かったか?」

「で、でも、もう充分に柔らかく……」

「てめえが判断してもいい、て誰が言った? え?」

 と、俺は叫ぶと、助手の顔を再度蹴り上げた。

 

(ドスッ、ドスッ、ドスッ)

 

 助手は、折れた歯をペッペッと吐き出すと、

「は、はい……」

「よし、再開だ!」

 

(ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン、ペッタン……)

 

 そろそろだな。あと一息だ。

 その時、背後から声がした。

「な、何でこんなところに兎が?」

 俺は無性に腹が立った。リズムを崩されてしまったからだ。

「勝手に声をかけるな、アホ!」

 と、俺は叫ぶと、見るからに動き難そうなスーツを着た二人を殴り飛ばした。

 スーツを着た二人は、後方に数十メートルも吹っ飛んだ。

 

* * *

 

 ニール・アームストロングとバズ・アルドウィンは、月面着陸直後に「兎がいて、何かを打っている」と報告したが、NASAジョンソン宇宙センターの管制センターは、「アホな報告はよせ」と返した。

 このやり取りが一般公開されることはなかった。

 

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