津村巧の未発表小説群

(携帯版)

 

名探偵登場

*良い子は読まないように*

 

 死体が部屋の中央に転がっていた。全裸死体である。

 といっても、脂ぎった中年男性の全裸死体だ。色気は欠片もない。手にはペン――モンブラン・ジェネレーション・ブラック――を握っていた。最後の力を振り絞って床に文字を殴り書きしたようだ。

 部屋には四人いた。

 被害者の妻、被害者の娘、被害者の弟、そして急遽呼び出された謎の名探偵である。

「だ、誰がこんなことをしたのか……。犯人を捕まえてください!」

 と、弟が叫ぶ。

 名探偵は、ボサボサの頭髪を引っ掻き回した後、頷いた。

「分かりました。私が事件の真相を解明してみましょう」

 死体に近付いた。

「ん?」

 ダイイングメッセージは『PER』だった。書いている途中に力尽きたらしい。

 どうせ死ぬならきちんと書き終えてから死ねばいいのに、無責任な奴だ、くたばって当然だ、と名探偵は呟いた。

「皆さん、この『PER』が何を意味するか知っていますかな?」

 妻、娘、そして弟は、首を横に振った。

「それを探偵さんに解明してもらいたいのです」

 名探偵は溜息をつくと、頭髪を忙しそうに引っ掻き回した。ボサボサの髪が更にボサボサになる。

「残念ながら、犯人はこの中にいますな」

 妻、娘、そして弟は、飛び上がって、

「我々の内一人が犯人だと?」

「そうです。しかし、誰か分かりません。ですから、裸になってください」

 三人はキョトンとした。

「裸?」

「そうです。素っ裸になってください。スッポンポンに。私の推理法なのです」

「で、でも!」

「スッポンポンになってくれないと犯人を解明できません。事件の真相が知りたくないのですか?」

「で、でも!」

「スッポンポンになりなさい! それとも事件の真相が明らかになっては困るのですかな?」

 三人は仕方なく下着姿になった。

「全部脱ぐのです! 素っ裸になるのです! スッポンポンになるのです!」

「で、でも!」

「スッポンポンになってくれないと犯人を解明できない! それでもいいのですかな?」

「で、でも!」

「スッポンポンになりなさい!」

 と、名探偵が叫ぶ。

「しかし……」

「スッポンポンになりなさい!」

 三人は、仕方なく全裸になった。

 いずれも脂肪が付き過ぎていて、ナイスバディとは言い難い。常人なら、一目見ただけで暑苦しい、と思うだろう。

 名探偵も全裸になった。骨と皮だけの貧弱な体格だ。イチモツだけが妙に立派である。妻に向かって、

「さ、奥さん、こちらに来てください」

「何をするんです?」

「早くこっちに!」

 妻は名探偵に近付いた。名探偵は妻を床に押し倒すと、黒光りした見事なイチモツを無理矢理押し込んだ。

 妻は六〇歳。何もかもしわくちゃで垂れていた。久し振りのセックスで悶えた。

 

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「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ」

 と、妻は悲鳴を上げながら悶えた。萎んだ乳房が、千切れ飛ぶと言わんばかりに跳ねる。

 名探偵も全身汗塗れになった。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 

(ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン……)

 

「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 

(ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン……ドピュッ)

 

 名探偵は黒光りした見事なイチモツを何気なく引き抜くと、頭髪を引っ掻き回した。

「奥さんは犯人ではありません。娘さん、こちらへ」

「でも……」

 と、娘がためらう。

「……犯人はあなたですね」

「違います!」

「では、こちらに来なさい」

 娘も、名探偵によって床に押し倒された。黒光りした見事なイチモツが無理矢理押し込まれる。

 娘は二〇歳だが、父親似で脂肪の層が身体を何重にも覆っていた。まさに豚である。いや、そう称したら豚に失礼なほど魅力に欠ける肉体の持ち主だった。生まれて初めてのセックスで悶えた。

 

(ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン……)

 

「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ」

 と、娘は悲鳴を上げながら悶えた。ボリューム感ある乳房が、千切れ飛ぶと言わんばかりに跳ねる。

 名探偵も全身汗塗れになった。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 

(ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン……)

 

「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 

(ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン……ドピュッ)

 

 名探偵は、ちょっと疲れた表情で黒光りした見事なイチモツを引き抜くと、頭髪を引っ掻き回した。

「娘さんは犯人ではありません。弟さん、こちらへ」

「でも……」

 と、弟はためらう。

「……犯人はあなたですね」

「違います!」

「では、こちらに来なさい」

 弟も名探偵によって床に押し倒された。黒光りした見事なイチモツが異臭を放つアヌスに無理矢理押し込まれる。

 弟は、同性を相手にするのは生まれて初めてだった。思わず悶えた。

 

(ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン……)

 

「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ」

 と、弟は悲鳴を上げながら悶えた。男性器が千切れ飛ぶと言わんばかりに跳ねる。

 名探偵も全身汗塗れになった。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 

(ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン……)

 

「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 

(ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン、バッコン、ズッコン……ドピュッ)

 

 名探偵は、憔悴し切った顔で黒光りした見事なペニスを引き抜くと、頭髪を引っ掻き回した。

「弟さんは犯人ではありません」

「じゃ、誰が犯人なのです、名探偵さん?」

 名探偵は、頭髪をこれでもかとでもいうように引っ掻き回した。

「真相は一つしかありません」

「そ、その真相とは?」

 名探偵は、頭髪を引っ掻き回しながら室内を見回した。

「それはこの室内を見れば明らかです」

「で、ですから犯人は?」

 名探偵は、頭髪を引っ掻き回しながらニヤリと笑った。

「被害者本人です」

「え?」

 名探偵の笑みが広がる。頭髪は、あまりにも引っ掻き回されている為、部屋中に散っていた。

「……これは自殺です、皆さん」

「まさか! なぜ裸になって死ななければ……」

「偽りのないピュアな姿で死にたかったのでしょう。男というのはそういうものです」

「そ、そんな……」

「あの、すみません」

 と、英国製のスーツを着こなした精悍な紳士が入室した。「道に迷ってしまって……。なぜみんなスッポンポンなのです? 被害者まで裸ですな。……あなたは誰ですかな?」

 名探偵は、頭髪を引っ掻き回しながら、

「通りすがりの変態です。では」

 と言うと、全裸のまま退室した。

 娘が、英国製のスーツを着こなした精悍な紳士に、

「あんたは?」

「電話をお受けした世界一有名な名探偵です」

「さっきの男は?」

「通りすがりの変態だそうで」

 と、英国製のスーツを着こなした精悍な紳士は言うと、被害者に近付いた。「……犯人が分かりました」

「だ、誰です?」

「被害者は、セックス中に『PERVERT』と書こうとしたところで力尽きたのです。『PERVERT』とは変態という意味です。心当たりはありますかな?」

 

* * *

 

 名探偵と偽名探偵が撲殺されたのは、言うまでもない。

 

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