(携帯版)
肉便所
*食前食後は読まないように*
糞好きか? 小便好きか? ゲロ好きか?
嫌いも何も、食えば出るものだから仕方ない、というだろう。
しかし俺は嫌いだ。だから俺は小便も糞もなるべく出さないよう心掛けている。
なぜ俺がこんな風になったか知りたいか? じゃ、教えてやろう。
* * *
俺は自宅へと急いでいた。小便が猛烈にしたかったのだ。ビールを飲み過ぎてしまったことを後悔した。
「畜生! もう我慢できん!」
と、俺は口に出すと、側の電柱に近寄った。辺りを見回す。
誰もいない。
「ま、いいか」
俺はジッパーを下ろすと、自分でも惚れ惚れとするほど見事なペニスを出し、電柱の根元に向かって放尿を開始した。
(ジョボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ……)
電柱が、派手な音と蒸気に包まれながら濡れていく。
「おお、極楽、極楽」
と、俺は思わず呟いた。あまりの気持ちの良さに目を閉じた。
(ジョボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ……)
放尿がこれほどの快感になるとは。
……快感。快感……。
……物凄い快感だ。
俺はふと思った。
放尿がここまで快感になる筈がない!
俺は目を開けた。目の前の風景が先程と異なる。
電柱がない。
俺は自分を見下ろした。
「ん?」
女が俺の目の前にしゃがんでいた。小柄で、色白で、かなり可愛い。胸もでかそうだ。小便だらけになっていることを無視して、俺の見事なペニスを美味しそうにしゃぶっていた。
「な、何だあ、てめえ?」
女は口を袖で拭うと、
「肉便所です。電柱が便所代わりに使われるのは電気会社にとって非常に迷惑なんです。作業員の衛生問題でね。ですから、肉便所制度が採用されることが決まりました。電柱の格好をして待っていて、放尿者が現れた時点で処理する。便利でしょう? はい」
と言い、手を差し出した。
俺は面食らって、
「な、何だ?」
「便所使用料。一〇〇〇円です」
「な、何でえ? 小便するのに一〇〇〇円もするのか?」
「肉便所ですから、割高なんです」
と、女は笑顔で言う。可愛い笑顔だ。小便の臭いがするのがまずかったが。
「払えるか! 失せろ」
と、俺は叫ぶと、女を突き飛ばした。
女は駆け寄った。
「お願いです。払ってくれないと困ります!」
「うるせえ! 失せろ!」
俺は女を再度突き飛ばし、ロー・キックを数十発浴びせた。
(バキッ、バキッ、バキッ……)
「お願いです。払ってくれないと困ります!」
と、女は呻きながら懇願した。
「うるせえ! 失せろ!」
(バキッ、バキッ、バキッ……)
「お願いです。払ってくれないと困ります!」
「うるせえ! 失せろ!」
俺は、女にロー・キックを更に数十発浴びせた。
(ドスッ、ドスッ、ドスッ……)
「お願いです。払ってくれないと困ります!」
「うるせえ! 失せろ!」
俺は、女にロー・キックを更に数十発浴びせた。
(ドスッ、ドスッ、ドスッ……)
女は動かなくなった。
俺は歩き出した。
「何が肉便所だ! 馬鹿か、あの女? ああ、アホらし。さっさと帰ろ」
……と、その瞬間。肩を掴まれた。
あの女か、と思って振り向くと、女性警官だった。小柄で、色白で、かなり可愛い。胸もでかそうだ。
「あなた、肉便所料金を踏み倒したでしょう? しかも肉便所を蹴りまくって破損させた」
「つ、使った覚えなんてない! 蹴った覚えもない!」
「言い逃れは無理です。ちゃんとビデオに残っていますから。あなたを肉便所不法使用罪と、器物破損罪で逮捕します。署まで連行します」
「アホなこと言うな!」
俺は、女性警官を突き飛ばした。ロー・キックを数十発浴びせる。
(ドスッ、ドスッ、ドスッ……)
「……署まで連行します」
と、女性警官は呻きながら言う。
「うるせえ! 失せろ!」
俺は、女性警官にロー・キックを更に数十発浴びせた。
(ドスッ、ドスッ、ドスッ……)
「……署まで連行します」
「アホなこと言うな!」
俺は、女性警官にロー・キックを更に数十発浴びせた。
(ドスッ、ドスッ、ドスッ……)
女性警官は動かなくなった。俺は歩き出した。
……というか、歩き出そうとした。
俺は数十人の警官に囲まれていたのだ。全員が銃を構えている。ニューナンブだ。三八口径はマグナム弾ほどの威力がないが、至近距離だと殺傷力は抜群である。
「肉便所不法使用罪、器物破損罪、および警官暴行罪で逮捕する! 観念しろ! さもないと即射殺だ!」
「そんなアホな罪あるか!」
「黙れ! 観念しろ! さもないと即射殺だ!」
数十の拳銃を相手に抵抗はできない。俺は両手を挙げた。
こうして、俺は逮捕された。
* * *
こんな下らぬ事件で出廷する羽目になるとは、予想外だった。普通だったら起訴猶予処分になるのではないか。それでなくても裁判所は人手不足で喘いでいるというのに……。
ここ数十年街中を一人で歩いたことがない世間知らずのオッサン、といった感じの裁判官が、糞つまらなさそうな顔で、
「判決を下す」
俺は覚悟した。こうなったらどんな刑でも受けてやる。どうせ大したものではなかろう。
「はあ、何でしょう」
「一ヶ月間の社会奉仕を義務付ける。以上」
俺はキョトンとして、
「それだけ?」
「それだけだ」
「……どういう社会奉仕で?」
「警察署の男子トイレでの奉仕だ」
「清掃員として、ですか?」
「違う。肉便所だ」
「はあ?」
「お前は警察署の男子トイレの肉便所となるのだ」
俺の中の血が音を立てて逆流した。
「しょ、小便を一ヶ月間にもわたって飲め、と?」
「小便だけではない」
「……まさか……」
「小用ではなく、大用の肉便所として奉仕することを義務付ける」
「嫌だ!」
「拒否はできない」
「上告する! 何が何でも上告する!」
「却下する」
「お前が上告を却下できる訳ないだろ、この馬鹿! アホ! 間抜け! アンポンタン!」
「裁判官を侮辱するのは違法だ」
「事実なら何を言ってもいいんだ、タコ! 馬鹿! アホ! 間抜け! アンポンタン!」
「事実でも言ってはならん。侮辱罪になる」
「事実を言って侮辱も糞もあるか、タコ! 馬鹿! アホ! 間抜け! アンポンタン!」
「糞はある。肉便所になるのだからな」
「絶対ならない!」
「ともかく、上告を却下する」
俺は、国選弁護人に目を向けた。
「おい、お前、俺の弁護人だろ? どうにかしろ」
司法試験に受かったばかりのペエペエといった感じの弁護人は、頭を掻いた。
「この件に関しては上告して争い続けるより、潔く刑を受けた方がいいと思いますが。長引いたらこっちが困りますよ」
「この屑弁護士が! 少しは働け!」
「国選弁護人だと報酬が少ないものですから」
「ふざけるな!」
裁判官が、何事もないように、
「よって、刑の確定を宣告する」
「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイーッ」
* * *
こうして、俺は一ヶ月間にもわたって糞を食わされ、小便を飲まされる羽目になった。日によってはゲロまで食わされた。糞も固形状ならまだマシだったが、下痢だった場合、特に大変だった。
これも女子トイレだったなら少しはよかったかも知れないが、男子トイレだ。見られるのは汚らしい野郎共の局部だけ。発狂しそうになった。しかも肉便所はただのモノ扱いしかされない。手荒く扱われても文句を言えないのだ。あの女の肉便所を蹴りまくった際、暴行罪ではなく器物破損罪で捕まったのも、それが理由だ。
俺は勤め終えた。小便を何百リットル飲み干し、糞を何百キロ飲み込んだことか……。しかし、やり遂げた。
が、これがトラウマになり、俺は糞も小便もゲロも嫌いになった。
当然だろ。